松田吉彦アナリスト:FRBの利上げはピークに達したのか? 2023年の日本株式市場は投資価値があるのか?

田吉彦アナリスト:FRBの利上げはピークに達したのか? 2023年の日本株式市場は投資価値があるのか? 

2022年は地政学的な紛争や疫病の流行、各国での利上げなどの複数の要因から、世界のリスク資産のボラティリティが大きく上昇した。今年の日本株式市場は、先進国株式市場の中でも底堅さを見せた。windデータによると、日本の東証株価指数は今年2.23%減少したが、欧米の株式市場(S&P500指数は21.87%落ち、欧州STOXX600(ユーロ)指数は9.50%落ち)と比べると、成熟市場である株式市場の中では、日本株のパフォーマンスは比較的良い方であると言える。

 2022年の日本株のパフォーマンスに影響を与えた主な海外要因は以下の通りである。

(1) 今年に入ってからの米連邦準備制度理事会FRB)の継続的かつ急速な利上げ

(2) 世界的なコロナの影響による投資マインドの低迷

(3) ロシア・ウクライナ紛争がもたらした世界的なエネルギーインフレとサプライチェーンの緊張

これらの要因が、外需型経済が主流の日本経済に大きな影響を及ぼしていた。

 更に、新型コロナの流行も日本経済や株式市場にとって攪乱要因となった。 日本では、防疫政策が徐々に緩和され、完全自由化されるまでの間、防疫政策の変動、感染者数の変動があり、それに伴って消費者の自粛期間、購買力、消費行動にも変動があった。 任意消費に比べ、強制消費はコロナに与えられた影響が少なく、全体として安定的に推移していた。 緩和期の始まりでは、家具や家電製品に代表される家庭用消費が最初に回復した。 これは主に、流行期には消費者が自宅で過ごす時間が長くなり、家庭環境に対する需要が高まったためである。 完全自由化後は、消費シナリオの制限が解除され、交通、飲食、履物など家庭外消費への支出が再開されたが、この間に家庭内消費が落ち込まなかったのは、自由化後も消費者が流行前より家庭にいる時間が長かったことが主な要因である。 流行抑制の解除に伴い、ほとんどの経常消費(小売売上高)は既に2019年の水準を上回った。 消費者マインドも、統制の緩和を受けて低下傾向に歯止めがかかったが、流行前の水準にはまだ戻っていない。

 2022年に入ってからは、2022年12月5日時点で対米ドルで15%の円安が進行している。 円安は、関係する輸出企業の収益にプラスになる。これは、ドル建て収益の円換算額が上がり、物価が上昇しやすくなるからだ。しかし、円安は輸入原材料の価格を押し上げるなどのデメリットももたらしてプラスとマイナスが相殺されるため、全体としてはメリットがデメリットを上回る。日本企業の為替感応度を利益への影響の安定性から見ると、日本の製造業はグローバルな生産ネットワークの構築により、為替変動への対応力を高めてきたと言える。 内閣府が毎年発表している「企業行動調査」によると、製造業の海外生産比率は22.3%であり、この比率が安定すれば、採算ベースでより安定した為替感応度を維持することが容易になる。 野村證券の試算では、対米ドルで1円の円安になるごとに企業の経常利益は0.22%増加し、2022年度に東証の経常利益は0.25%増加するとされている。

 

2023年の日本株パフォーマンスは高値更新の前に低値更新を予想

 

 2023年の日本株のパフォーマンスは、高値更新の前に低値更新する傾向が見られる。11月以降、市場は米国の金融政策シナリオを再評価しているが、楽観的な期待からは、株価は一定の上昇をみせている。しかし、FRBの利上げプロセスはまだ終わっておらず、米国のインフレ水準は目標の2%から相対的に高く、2023年長期にわたって高止まりする可能性がある。2023年第1四半期の世界主要国経済の下振れは確率的に高くなり、企業業績は世界同時不況を背景に下方修正される可能性が高い。

 その結果、日本株は上記のマイナス要因を吸収するためのショック調整が押し寄せる。そのため、今年、春以降での日本株のパフォーマンスには大いに期待できる。第1に、2023年第1四半期にFRBが5%程度まで利上げを行った後、供給制約が緩和され、タカ派スタンスが中立スタンスに調整される可能性が頂点に達することが予想される。次に、コロナの流行やロシア・ウクライナ紛争によるサプライチェーンの混乱は解消されると予想され、これらはインフレ圧力を低下させるだろう。 最後に、日本の製造業活動は回復し、自動車生産と輸出の回復が企業収益に貢献すると予想される。 輸出数量の全般的な方向性は、今後も日本株式の見通しを決定する重要な要素になると思われる。

 ブルームバーグによると、市場は将来の東証EPSを2023年度に137.9(+2.1%)、2024年度に126.0(-8.6%)、2025年度に137.0(+8.7%)と予想し、この予想に基づくと、2023年度の東証PERは15.3倍となる。前年比増益に回復することを考えれば、安倍経済対策後の平均(14.6倍程度)よりやや高いPERを予想するのが妥当だろう。日本株は欧米株と比較して割安である。

 全体として、日本は中国、米国に次ぐ世界第3位の経済大国であり、米国、中国に次ぐ世界第3位の地域株式市場であり、多くの分野で国際競争力があり、日本株式は世界の資産配分において高い価値を持つアロケーションになると考えられる。

世界的な疫病の終息により、日本経済は徐々に回復し、日本株式市場にとって不利な要素は徐々になくなっていくと予想さ れる。

 私たちが日本の株式市場に中長期的な投資を行うロジックは、以下である。

(1) 日本は世界の産業連鎖の中で圧倒的な地位を占めていること。

(2) 精密自動機器産業は、日本の少子高齢化と世界的な労働生産性向上要求に応えていること。

(3) 日本に入国した外国人観光客による観光消費で、地域経済が活性化されること。

(4) ESGの導入により、上場企業の国際的な通用性が高まること。

 今後の日本株市場で注目するセクターは、デジタル・エンターテインメント、生産自動化、消費財、電気自動車、金融、ノンバンクの保険・持ち株金融などである。 以下の特徴を持つ企業は、特に注目すべきである。

(1) 資源価格の高騰に耐えうる十分な利益率を持ち、コスト上昇分を販売価格に転嫁できる競争力を持つ企業。

(2) 自らの努力で大きな成長を遂げることができるため、世界の短期的な変動から比較的影響を受けにくい企業。

(3) 地域的な特性から、新型コロナの流行終息とアジア経済の正常化の恩恵を受ける可能性が高い企業。

(4) 日本再開の恩恵を受ける可能性が高い企業。

(5)脱炭素化、コーポレートガバナンス強化など、ESGに前向きな姿勢を持つ企業。